積層する時間 〜本堂工事の現場から〜

積層する時間 〜本堂工事の現場から〜

過去と現在が混在する修理

音羽の瀧の真上に位置する奥の院は、2011年より修理を開始し、2017年にすべての修理を終えました。
本堂と同じく急峻な崖に建ち、懸造りの構造。本尊・千手観音菩薩を囲むようにして立ち並ぶ脇侍の地蔵菩薩と毘沙門天、それに風神・雷神と眷属・二十八部衆まで本堂と同じです。まるで本堂を小さくしたような建物ですが、詳しい記録はほとんど残されていません。弘法大師の坐像を祀ることから清水寺が法相宗に加えて真言宗を兼学するようになった平安時代中期に建てられたと考えられていますが、これも明らかではありません。

奥の院の改修を終え、2017年7月にふたたび安置された内々陣の雷神像

そんな謎多きお堂、奥の院の修理は、慎重な歴史考証をおこないながらの作業でした。たとえば、屋根を支える組物の極彩色。残存している彩色の調査結果に基づいて外部は基本的に塗り直しましたが、残存状況の良好な南面は学術的価値からそのままにしています。

奥の院の彩色作業の様子

部分的に彩色を施すことで、過去と現在の手仕事が混在する結果となりました。かつての技術を伝え、経年による変化を残すことも修理方法のひとつなのです。奥の院の舞台から見上げれば、「歴史と今」を感じさせる建物がそこに建っています。