観音様とともに生きた109年。大西良慶和上(2015.0213)
森清範貫主に聞く、良慶和上とのとっておきの思い出
在りし日の大西良慶和上。
「良慶和上は、自分に対して厳しい方でした。」と語る森清範貫主。
書とともに絵画にも優れた作品を数多く残されました。
大講堂・円通殿に掛けられた良慶和上の書「風光千里」。署名の「良慶百久」は、九を久とされたもので、なんと109歳のお正月に書かれました。
有名な書「白雲心」。良慶和上がお住まいになった成就院では、和上の書を多数見ることができます。
2015年は大西良慶和上の三十三回忌。若い方はご存知ないかもしれませんが、清水寺には109歳で入滅されるまで現役の貫主がおられました。大変な長命と、「良慶節」と親しまれた独特の説法で知られる良慶和上は、多くのご参拝者で賑わう現在の清水寺の基礎を築いた「中興の祖」です。
今回は、良慶和上を最もよく知る人物のひとり、森清範貫主のお話と、語り継がれる良慶和上の「レジェンド」、一時は存亡の危機にあった清水寺の再生の物語をご紹介しましょう。
「今年の漢字」の揮毫(きごう)で書家としても広く知られる森貫主にとって、良慶和上といえば、やはり書を習ったことが一番の思い出。
「若い頃、なかなか上手くならないと言った私に、良慶和上は『すぐに上達するものではない。ひと文字習えばひと文字が手に入ると思って、こつこつと励め』とおっしゃいました。
『習』という文字は重ねるという意味がありますが、手習いを繰り返し、紙を一枚一枚重ねていくようにして高みへ上がっていくものだと教えられたのです。」
良慶和上は常に、弟子がすった墨をそのまま使うことはなく、自ら時間をかけてすり直し、書き終わった後は、筆に水を注いで薄い墨汁をつくり、その墨汁でお手本を見ながら練習をされたのだそうです。
「自ら墨をすり、その上まだ手習いをなさる。100歳を越えてなお、自らに『習』を課す厳しさと、謙虚でひたむきな姿勢に感銘を受けました。あるとき、硯をぬぐうようにして薄墨で手習いをされる良慶和上が神々しく見え、ハッとしたことがあります。それまで意識してなかった本当の素晴らしさが見えたのですね。
何度も繰り返し、積み重ねて、香が染みこむように身につくことを、仏教の言葉で熏習(くんじゅう)といいますが、それが見えた瞬間でした。あのときの和上のお姿はいつまでも心に残っています。おそばにいた私だけの宝です。」
森貫主が15歳で入門した当時、良慶和上は80歳。森貫主は「師匠というより、雲の上の存在。その場に来られると皆の背筋が張るような、凛とした方でした。」といいます。とはいえ、厳しかった思い出ばかりではありません。
「良慶和上に『おまえはあん摩がうまいな。』とほめられ、それがとてもうれしかったことを覚えています。修行の仲間には、何度も肩や腰を揉ませるためにほめたのだろうと笑われましたが、それでもよかった。ご高齢ですから冬の寒い夜などは大層お辛そうで、私は手が疲れて痛くなるまで揉んだものです。良慶和上の温かさは、この手の中にすぐによみがえってきます。これもまた、私だけがもっている大切な宝です。」
長年、良慶和上のもとで修行をした森貫主には、このほかに和上のお人柄がうかがえるやさしい思い出も。特設サイト「清水へ参る道」無財の七施でご紹介しています。
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